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廓日記 エピローグ

長らく お付き合いくださり有難うございました。
ある青年が 若い頃部屋を借り 蚤が湧いた話。ただそれだけの話しでした。

そんな 彼もなんとか卒業することができ 無事就職もできました。
2年間関西で修業を積んで 長崎に帰って来て数年経ったころの夜です。

私は 仕事仲間と銅座(長崎の歓楽街)で呑んでいると
けたたましいサイレンの音。緊急自動車のように波長の変わる音ではなく、固定のサイレン音です。
火事です。近くの消防署のサイレンでしょう。
それが いくら待っても止まりません。泣くように唸っております。
そのうち 緊急自動車の波長のまばらなサイレン音も鳴り響いてきます。
「この火事 大きいのと違うか?三次出動のサイレンや」
スナックのママは 店を飛び出し情報収集です。
「丸山公園付近が火事やて。花月が燃えてるかも?」とのこと
「花月が?俺、あの辺りに住んでたんや。ちょっと見てくる」
銅座から丸山は目と鼻の先です。
店を出ると すでに風は焦げ臭いにおいがして、丸山方面の空は 薄く紅く光っています。
現場に着くと 丸山公園の周りは消防車でいっぱいです。
道路には 消火ホースが大蛇の如くうごめいています。

俺の、俺の住んでた廓屋敷。
あぁ~燃えてる。
あのいつも出入りしていた見覚えある1階のたたずまい、パチンコの帰り、銭湯の玄関から見上げたあの2階・3階の屋根の形
それらが 紅い炎のなかで揺れています。
周りは 緊急車両のサイレンの音 野次馬の怒涛の声、それを裁く警察官の怒声、消防隊の何を言っているのかわからないが
腹からの絞り出すような声、近くの電柱のトランスの爆発する音。
すごい音です。
そんな 入り乱れた喧騒の中 一瞬、私の頭からその喧騒が小さくなったのです。
騒音が小さくなるわけはありませんが 確かに私の耳からそれらの音は遠のいたのです。
はるか彼方の遠方の音のように感じました。
それと同時に あの見慣れた炎の中で揺れていた廓屋敷の屋根が バリバリバリと崩れ落ちたのです。
それに伴い 爆発するように火の粉が舞い上がりました。
不謹慎な表現ですが 私は「はぁ~きれいだなぁ」と感じたのです。
空は 茜色。火の粉はまるで寂しく 且つ 美しい「冬の花火」のようです。

いっしょに呑んでいた仕事仲間に
「俺 昔ここに住んでたんや」
「へぇ。そのまま住んでたら今頃あの炎の中で死んでたかもなぁ」

そうだなぁ。確かにあのまま住んでいたら 
卒業も出来ず、夜の蛾となって 今頃あの炎の中で焼かれていたかもしれません。
俺が助かったのは あそこから我々を追い出した、いや優しい幽霊たちのお蔭だったのです。
あの幽霊たち 成仏してあの世に帰れたかなぁ?
あっ。さっき静かになったのは あの幽霊たちが 俺に、お別れの挨拶に来たのかもしれないな。
きっと そうです。
そんな 気になったのを覚えています。

以前住んだことのある家が燃えるというのは
こんな 寂しい、悲しい、且つ、美しい気持ちにさせるものです。

(花月は 消防隊の懸命な努力の末延焼は免れたのです)(←これも あの幽霊たちの????) 
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コメント

久しぶりにこの話を思い出した。知らなかったエピソード、いいですねぇ。

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